一人暮らしのマイナス要因

だが、心のどこかで彼は授業に出なくて済んだことを喜んでいた。授業中や休憩時間に話せるような、親しい友人が1人もいなかったからだ。大学の授業というのは、必修として定められたもの以外は、個人が自由に選択出来る仕組みである。小・中・高のように長期間クラスメイトとなる状況は、示し合わせことでもしない限り起こりにくい。元来の消極的な性質に加え、地元から遠く離れた地での一人暮らし、というのがマイナス要因として働いたのだろう。

一人暮らしで追いつめられる

「話し掛けなければ友人など出来やしない」入学当初から、前に出て行くことの苦手な自分を奮い立たせようとして唱え続けていた言葉は、逆に一人暮らしの身の上を追い詰めていく。実家にでも電話して、胸中に燻る不安や焦りを紛らわせれば良かったのかもしれないが、両親を疎んでいた。郷里にも気軽に連絡を取れるような仲間など、1人として存在しなかった。いじめの標的となることはなかったが、仲良しグループの輪に加わることもないまま、今まで過ごしてきたのだから。

一人暮らしの不満が募る

仕送りを貰っている青二才の分際で疎むとは、と非難の目で見る者もいるかもしれない。しかし彼自身の人見知りが激しい性格は、ある部分ではその両親によって形成された部分があった。また、本来志望していた大学ではなく、半ば強制的に今の学校に追いやられたため、密かな不満が募っていたのだ。夜、一人暮らしの部屋で湧き上がるのは、1人でいることの寂しさ、親から離れられたことの嬉しさ、希望にそぐわぬ地で生活することへの不満、そんなことばかり。

自分から何もしなかったから、一人暮らしでドン底まで落ちるのを経験。でも最下層まで行けば、そこで留まるか上にあがるしかない。浮上のきっかけは、それとなくやってくる。

Copyright 一人暮らしでドン底まで落ちる 2017
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