一人暮らしの目的が変わっていく

彼が一人暮らしを悪い方向に満喫していることを、この時点で両親はまだ現状を知らない。目の前の現実から逃げるようにして、ひたすら働いてるだけということを。大切に育てた息子は立派に学業を修めようと、自分達の期待に応えようと努力していると信じて、少しも疑ってはいなかったのだ。彼が遠いその地で孤独にさいなまれ、死を選ぶことだけはないものの、少しづつ真っ直ぐにのびた道から逸れつつあることも。何もかもわかっていなかった。

一人暮らしで参ってしまう

二学年を終えようとしていた時、傍目には分からぬ程度にだが確実に、他人と関わることに恐れを抱くようになっていた。アルバイトは相変わらず続けていたが、絶えず自分は陰では罵られているのだという被害妄想に悩まされている。一人暮らしで、話すような親友もおらず、親には話すことさえしたがらない。かといって、どこかのカウンセラーに相談を持ちかけるような勇気もない。精神はこれ以上ないほどに追いつめられ、参ってしまっている。

一人暮らしが苦痛でしかなくなる

もはや学業は必死で追いかけても、届かぬところまで進んでいた。勤め先では、不器用さが露呈しだし、後から入ってきた新人にも劣る仕事振りになってしまう。周囲の視線は、優しく見守るものから蔑みのそれへと変わっていく。いや、実際はどうだったろうか?聞いて確かめた訳ではないのだから、真実は分からない。少なくとも彼自身はそう思い込んでいたということだけである。一人暮らしの解放感など、もはや空虚感ばかりの苦痛なものでしかない。

自分から何もしなかったから、一人暮らしでドン底まで落ちるのを経験。でも最下層まで行けば、そこで留まるか上にあがるしかない。浮上のきっかけは、それとなくやってくる。

Copyright 一人暮らしでドン底まで落ちる 2017
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