一人暮らしの憂鬱を紛らわす

ある時から休日を、雑踏の中で過ごすようになった。一人暮らしの部屋に鬱々と閉じこもっていることに、うんざりしていたから。他人と関わりを持つことに対しての恐怖感はそのままだったが、狭い部屋で独り悩み、その日の天気も判然としないような時間を過ごすよりも健康的だと思う。駅へ向かうのにバスは利用せず、歩きを優先する。閉ざされた空間にたくさんの者達。停留所で止まり、乗り込んだ自分に向かって振り返るのもいる。考えただけで吐き気をもよおしたそうだ。

一人暮らしから逃れようとする

結果として、気分はとても落ち着いたという。林立するビル群。車両の排気音や、街中のスピーカーから流れる音楽や宣伝。平日であるにも関わらず、大勢の人がすれ違うスクランブル交差点。ざわざわとした雑多な音の群れが耳の傍を通り過ぎる。誰もが、何もかもが、彼に対して無関心。視線さえ合うことはなかったが、それでいい。一人暮らしの空しさと、対人の恐怖に追い詰められていたから、それらがとても心地よく感じられたのだそうだ。

一人暮らしなんてつまらない

だが、やはりそれも悪い方向へと流れてしまう。雑踏と喧騒に慣れ、快さを覚えた彼は、今度は家へ帰るのがたまらなく嫌になっていた。一人暮らしのあの部屋。テレビでもつけなければ、シンとしている。話しかける相手はどこにもいない。「ただいま」も「おかえり」も、言うのは自分だけ。時折、隣近所から騒ぐ学生達の楽しげな声が響く。どこか別の国で起きたかのように、遠く隔たりを感じる。考え始めればきりなくそんなことしか思い浮かばない。

自分から何もしなかったから、一人暮らしでドン底まで落ちるのを経験。でも最下層まで行けば、そこで留まるか上にあがるしかない。浮上のきっかけは、それとなくやってくる。

Copyright 一人暮らしでドン底まで落ちる 2017
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